高速基板のパワーインテグリティ解析 CST PCB STUDIO

高速信号の設計ではシグナルインテグリティと共にパワーインテグリティが大きな問題となります。パワーインテグリティの目的は、良質な電力供給によりクリーンな高速信号伝送を実現することにあります。良質な電力供給とは、具体的には1) DC電力の要件を満たし、かつ 2) AC電流スイッチによる電源変動の影響を抑制するものを指します。以下では、CST PCB STUDIO(CST PCBS)によるパワーインテグリティ シミュレーションのワークフローをご紹介します。なお、評価ボードとして 1信号 2電源 3信号 4信号 5グラウンド 6信号 の構成による6層基板を使用します。

DCパワーインテグリティ(IRドロップ)

DCパワーインテグリティ(IRドロップ)は、ドライバ(I/O部品)の電流と供給電力の電圧を含む静的な問題です。 CST PCBSではPEEC法(部分要素等価回路法)の静的な数式を用いてこれを解きます。PEEC法では、等価回路は純粋な抵抗回路として生成されます。計算量は少なく、大型基板でも短時間で解析できるため、この解析は設計フローの初期段階で行われるのが普通です。

本事例では1.8V電源プレーンを使用します。この電源プレーンに2つのI/O部品、U7(グラフィックプロセッサ)とU8(DDR2 RAM)が接続されています。DC電圧降下を正確にとらえるためには、これらの部品の電気特性を正確に考慮することが重要です。必要な情報は次の二つです:1) 給電用DC-DC変圧器の出力電圧(通常は電源プレーンのラベル名から読み取り可能)、2) 電源プレーンに接続されている高速ドライバ(I/O部品)の消費電力の総量。本事例では、U7部品の電流は350mA、16ピンのU8部品では190mAです。図1は1.8V電源プレーンとそこに接続された部品を、図2はIR ドロップシミュレーションでセットアップされた情報を示します。

<p>図1:1.8V電源プレーン(白枠)と接続された部品、U3(電源)、U7およびU8(I/O)</p>

図1:1.8V電源プレーン(白枠)と接続された部品、U3(電源)、U7およびU8(I/O)

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<p>図2:IRドロップシミュレーションのダイアログ: I/O部品の給電電圧と電流を入力</p>

図2:IRドロップシミュレーションのダイアログ: I/O部品の給電電圧と電流を入力

解析結果の電圧分布(1.8V電源プレーンの電圧分布)を図3に示します。電圧変動の許容範囲は±0.1Vであり、上下の差は0.2Vです。DCノイズマージンは通常20%ほどですので、本事例のドライバはI/O部品の電気的要件を満たします。

<p>図3:1.8V電源プレーンの電圧分布</p>

図3:1.8V電源プレーンの電圧分布

ACパワーインテグリティ

ACパワーインテグリティの解析にはコンデンサやVRMといった電源分配網(PDN)部品が関係し、さらに、マウントされた部品の配置も絡むため、上述のDCパワーインテグリティ解析よりも計算負荷が大きくなります。解析の中心はビアと電源プレーンにおける電流密度、特にVRMから高速ドライバへと通じる領域が焦点となります。高電流ではインダクタンスが高くなり、またインダクタンスは、周波数が高くなるほど高くなります。したがってACパワーインテグリティ解析は、PDNインピーダンスをなるべく小さくし、スイッチングによる電圧変動を抑制するのを最終的な目標とします。

<p>図4:電源分配網(PDN)</p>

図4:電源分配網(PDN)

PDNインピーダンスは、ターゲットインピーダンスを求めることで簡単に最小化できます。このターゲットインピーダンスは下式で計算されます:

<p>図5:PDNインピーダンス最小化の基準となるターゲットインピーダンスの式</p>

図5:PDNインピーダンス最小化の基準となるターゲットインピーダンスの式

電圧変動のノイズマージン0.2Vについて、その20%がDCノイズマージンであれば、ACノイズマージンは80%、すなわち0.16Vとなります。AC電流540mAとすると電源プレーンのターゲットインピーダンスは0.29 ohmとなり、これをもって電圧変動の最大許容値を満足するPDNインピーダンスのゴール値が定義できます。

PDNインピーダンスは、各ドライバピンに注目することにより定義できます。U8部品のA1ピンによるPDNインピーダンスを図6に示します(ベアボード:緑色)。このインピーダンスは低い周波数では容量性を、高い周波数では誘導性を示し、典型的なV字カーブとなります。683MHzにあるピークは、電源プレーンの共振によるものです。ここで、電源プレーンとグラウンドプレーンの間にバイパスコンデンサを挿入し、PDNインピーダンスの低減を図ります。この措置により基板に寄生成分が導入され、共振周波数がシフトします。コンデンサを挿入した結果を図6(赤色)に示します。ベアボードでは683MHzにあった共振が、低い周波数にシフトしているのが分かります。

高周波領域ではコンデンサは寄生成分のために短絡回路のような特性を示します。このためPDNインピーダンスは変化せず、コンデンサの値を大きくしてもそれほど改善しません。高周波領域でPDNインピーダンスを改善するには、寄生容量の小さいコンデンサを選び、インダクタンスを低減するように配置を修正し、その都度インピーダンスを計算する必要があります。必然的にシミュレーションの回数が増え、手間のかかる仕事になります。

<p>図6:PDNインピーダンス: ベアボード(緑)と実装基板(赤)</p>

図6:PDNインピーダンス: ベアボード(緑)と実装基板(赤)

U8-A1ピンから見た空間インピーダンスプロットを図7に示します。ベアボード(a)では主にプレーンの共振による非常に高い値が観測されます。共振領域にバイパスコンデンサを挿入した実装基板(b)では、期待通り低減されたインピーダンスを確認できます。

<p>図7:PDNインピーダンスの空間プロット: ベアボード(a)と実装基板(b) 683MHz</p>

図7:PDNインピーダンスの空間プロット: ベアボード(a)と実装基板(b) 683MHz

トランジェント パワーインテグリティ

三つめのパワーインテグリティ解析として、給電電圧の過渡解析を行います。ドライバがスイッチング信号を駆動すると、過渡電流が引き起こされます。U8部品の16ピンとU7部品の7ピンをそれぞれIBIS電源ピンに接続し、過渡電流スイッチング信号をモデル化した"1010"ビットシーケンスをそのIBIS制御ピンに入力します。接続線にはそれぞれプローブを設定して、過渡電圧を観測します。プローブ結果を図8に示します。ここでは2つのプローブの結果のみを示しています。

<p>図8:スイッチング過渡電流(上)と電圧プローブ結果(下)</p>

図8:スイッチング過渡電流(上)と電圧プローブ結果(下)

図8上は過渡電流、下は電圧プローブの結果プロットです。赤はU7部品、緑はU8部品の電流と電圧を示します。電流の駆動によりドライバ給電の電圧ノイズが生じています。スイッチング電流が大きいほど、またスイッチングドライバが速いほど、電圧ノイズも大きくなり、PDNインピーダンスの低減が必要であることが確認できます。

まとめ

高速基板におけるパワーインテグリティの解析フローをご紹介しました。DCとACそれぞれについてパワーインテグリティ解析を行いました。PDNインピーダンスを周波数領域で最適化して給電電圧ノイズを最小化する方法はよく用いられます。過渡解析では、スイッチングにより生じる電圧ノイズの低減に向けて、PDNインピーダンスの最小化がいかに重要かをより明確に示しました。

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