高インピーダンス表面とウィルキンソン分配器を用いた方形ループアンテナ

高インピーダンス表面を持つ平面状方形ループアンテナ(SLA: Square Loop Antenna)の解析事例を紹介します。4方向ウィルキンソン電力分配器による給電構造を含めたシミュレーションを行います。計算結果はドーナツ状の遠方界分布を示し、SLAが移動体通信用のルーフアンテナに適すことが確認できます。

アンテナコンフィギュレーション

ループアンテナは、ロジャース基板(誘電率3.4、厚さ1.52mm)上にプリントされ、ループ長(120mm)とトラック幅(1.5mm)は共振周波数4.8GHzに最適化されています。グランドプレーンは金属面ではなく、電磁バンドギャップ(EBG)のある高インピーダンス表面(HIS)です。金属グランドプレーンの反射位相は180度ですが、人工磁気導体(AMC: Artificial Magnetic Conductor)に類似した特性を有するHISでは-180度から+180度までの間で変化します。もしアンテナの共振周波数が、HIS構造の反射位相-90度から+90度の間にあれば、HISに近接してアンテナを配置することが可能です[1]。この場合、従来の金属グランドプレーンでは1/4波長厚さの基板を必要とするのに比べて、HISグランドプレーンではアンテナ全体を薄くすることができます。なお、表面波のサイドローブを低減するために、外側のパッチに接地ビアを設けます。

図1:HISのある方形ループアンテナ。基板を半透明にして構造内部を表示しています。
図1:HISのある方形ループアンテナ。基板を半透明にして構造内部を表示しています。

方形ループアンテナモデルに4つのウェイブガイドポートを定義します(図1)。長さ30mmの導体ストリップでループを作成し、4つのアームの中央にそれぞれポートを設置し50 OhmのSMAコネクタで給電します。ポート1つを励振し、残り3つを受動終端してシミュレーションを行った結果、偏向したビームチルトが得られました(図2)。

図2:遠方界分布:励振ポートを変えた結果
図2:遠方界分布:励振ポートを変えた結果

上記の遠方界を同位相と同振幅で合成すると、半ドーナツ状の分布が得られるはずです。このような同時励振は、CST DESIGN STUDIO(CST DS)を使用し、アンテナモデルに3dB電力分配器を接続して簡単に実行できます。アンテナモデルを表すCST MWSファイルブロックの4つのピンに理想的な3dB電力分配器を接続し、分配器をさらに外部ポート(外部電源を表す)に接続した回路図を図3に示します。

図3:理想的な3dB電力分配器による同時励振
図3:理想的な3dB電力分配器による同時励振

上記の同時励振による解析から得られた方形ループアンテナの反射損失を図4(a)に示します。同じ位相と振幅で同時励振を行う場合、4つのアームに同質な表面電流分布がみられることが予想できますが、その通りの結果を図4(b)は示しています。HIS構造のエッジに接地ビアを作成し、エッジを流れる表面電流がサイドローブを形成することが無いようにします。その結果得られるドーナツ状の遠方界分布を図4(c)に示します。

図4:(a)方形ループアンテナの反射損失 (b)近傍界分布 (c)遠方界分布
図4:(a)方形ループアンテナの反射損失 (b)近傍界分布 (c)遠方界分布

4方向ウィルキンソン分配器

図5:4方向ウィルキンソン分配器
図5:4方向ウィルキンソン分配器

上記シミュレーションで同時励振を実現するために挿入した理想的な3dB電力分配器は、実作が難しいため、現実には4方向ウィルキンソン分配器を繋いで同時励振します。本事例ではロジャース基板を使用して4方向ウィルキンソン分配器をモデル化しました。SMAコネクタとハウジングも僅かながら不整合の要因となるため、これらもモデル化して解析に含めます。レジスタは値2*Zoの集中定数素子でモデル化します(Zoは入力ポートにおけるラインインピーダンス)。

4方向ウィルキンソン分配器の出力ポートは4.8GHz付近で6dBの入射損失を示し、共振周波数では20dBより優れた低反射損失となります。すべての出力ポートはレジスタにより整合し、出力ポート間に良好なアイソレーションを達成します。共振周波数におけるアイソレーションは約20dBです。

図6:4方向ウィルキンソン分配器の反射損失、入射損失、アイソレーション
図6:4方向ウィルキンソン分配器の反射損失、入射損失、アイソレーション

ケーブル接続

簡略化した同軸ケーブルモデルで電力分配器とアンテナを接続し、シミュレーションを行います。給電が同相となるように、4本のケーブルは同質とし長さも等しくします。

図7:ケーブルの3Dモデルと位相情報
図7:ケーブルの3Dモデルと位相情報

システム全体

最終段階として、CST DSの回路図上でアンテナとケーブルと4方向ウィルキンソン分配器を統合し、システムシミュレーションを行います。ただし遠方界分布を得るためには、CST MWSのフル3Dシミュレーションが必要です。CST DSの回路図に各部品のブロックを挿入して接続した後、S-parameterシミュレーションタスクを定義して実行します。3Dレイアウト生成機能とスケマティックトポロジ機能がアンテナシステムの3Dモデルを自動生成します。

図8:システムの回路図と3Dモデル
図8:システムの回路図と3Dモデル

4.8GHzにおけるシステムの反射損失と遠方界分布を図9に示します。分配器の金属筐体とケーブルの反射によって遠方界分布は僅かに非対称になっていますが、ドーナツ状の放射分布は変わらず保たれています。

図9:システムの反射損失と遠方界分布
図9:システムの反射損失と遠方界分布

まとめ

高インピーダンス表面(HIS)を使用した平面状方形ループアンテナの解析例をご紹介します。AMCに類似した特性のHISにアンテナを近接配置することができるため、構造をより薄く、コンパクトにする可能性が開けます。4方向ウィルキンソン分配器を用いて同相信号を入力し、ドーナツ状の放射分布が得られました。より現実に即した解析を行うために、分配器とケーブルを含めたアンテナシステムのシミュレーションを行いました。

参考文献

[1] P. Deo, A. Mehta, D. Mirshekar-Syahkal, P.J. Messy and H. Nakano, "Thickness Reduction and Performance Enhancement of Steerable Square Loop Antenna Using High Impedance Surface", IEEE Trans. Antennas Propag., vol 58, pp.1477-1485, May 2010

[2] A.Pal, A. Mehta, D.Mirshekar-Syahkal, and H.Nakano, A Square-Loop Antenna With 4-Port Feeding Network GeneratingSemi-Doughnut Pattern for Vehicular and Wireless Applications, IEEE Antennas and Wireless Propag. Letter. vol.10, pp. 338-341, Apr, 2011.

会社名
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所在地
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