誘電率をもっとよく知るためのQ&A
高周波用途に誘電率を応用する
Q1. 材料のもつ誘電率は、信号が伝搬する速度に影響を及ぼすでしょうか?
Q1. 材料のもつ誘電率は、信号が伝搬する速度に影響を及ぼすでしょうか?
A1.
材料の持つ誘電率は、信号の伝搬速度と関係があります。信号の伝搬速度を速くするには、伝搬距離と信号の伝搬遅延時間を短縮させることが重要です。
信号伝搬遅延時間(Td)は、次式で与えられます。
Td = L * ε r1/2 / C
L : 信号伝搬距離 | ε r1/2 :配線板絶縁材料の比誘電率 | 比誘電率:材料の誘電率/真空中の誘電率 | C:光の速度 |
この式から信号の遅延は材料の比誘電率と密接に関係し、遅延時間の低減には材料の低誘電率化が不可欠となります。
例えば、汎用的な基板材料であるガラスエポキシ(εr=4.8)と高周波用基板材料である低誘電率ポリイミド(εr =3.5)を比較した場合、信号遅延時間はガラスエポキシが1.17倍も大きくなります。
(参照:「高周波用高分子材料の開発と応用」シーエムシー出版 馬場文明/監修 より抜粋)
Q2. 回路基板を加工する前後で、回路基板自体のもつ誘電率は変化しますか?
Q2. 回路基板を加工する前後で、回路基板自体のもつ誘電率は変化しますか?
A2.
変化します。下図は、ガラスクロスの基板に樹脂を浸透させた例です。樹脂を浸透させる前のガラスクロス単体の誘電率はおよそ5~6で、樹脂単体の誘電率はおよそ3ですが、樹脂を浸透させた後の回路基板の誘電率は全体的に低くなってしまいます。また樹脂の浸透程度が場所により不均一な場合、誘電特性も不均一になってしまいます。誘電体セラミックスの場合も同様に、焼結条件のわずかな違いにより誘電特性が異なります。
現代の基板は様々な複合材料で構成されているので、最終的な材料の誘電率を正確に把握し、正しいデータを取得した品質管理が重要になります。
Q3. 高周波回路に適した高分子材料の特性とはどのようなものですか?
Q3. 高周波回路に適した高分子材料の特性とはどのようなものですか?
A3.
比誘電率の波長短縮効果により、誘電体内の電磁波の速度は空気中に対してに減少し、従って波長もに縮小して、立体回路などの寸法が小さくなりますが、その反面、誘電体の電磁波吸収により損失が生じます。それゆえ、なるべく損失係数ε”=ε’ tanδが小さいことが望ましいです。とくにεrが大きくtanδの小さい物質が最適ですが、それにはなるべく非極性に近い物質構造が必要です。
一般に高分子材料は極性の強いものが多いですが、これらは高損失です。一般にεrが大きい物質はtanδも大きい傾向にあります。下図には、主要な物質の2.45GHzおよび950MHzのマイクロ波帯における誘電率と損失角正接の測定値が示されていますが、この周波数領域では比誘電率はほとんど変化しませんが、tanδは変化が大きいことがわかります。
2種類のマイクロ波におけるεrとtanδの変化
(参照:「高周波用高分子材料の開発と応用」シーエムシー出版 馬場文明/監修 より抜粋)
主要な材料のεrとtanδ
(参照:「高周波用高分子材料の開発と応用」シーエムシー出版 馬場文明/監修 より抜粋)
高周波損失はε”に比例するので、高周波回路にはε”またはtanδの小さい物質が適しています。上表で見られるように、テフロン、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレンなどは誘電率は低いですが損失も少ないです。これに対してナイロンなどは同じくらいの誘電率ですが、ε”が大きく高周波損失の大きいことが示されています。以上のように高分子材料はその種類によりεrとtanδが異なるので、使用する目的によって誘電率の測定を行い、その種類を決めなければなりません。また、誘電率は周波数により変化するので、測定は目的とする周波数において行う必要があります。
(「高周波用高分子材料の開発と応用」シーエムシー出版 馬場文明/監修 p29~30より抜粋)
Q4. 高周波用高分子材料の開発で気をつけることはなんですか?
Q4. 高周波用高分子材料の開発で気をつけることはなんですか?
A4.
高分子材料を高周波用途に適用しようとする場合、高分子中に含まれる微量な不純物や添加剤が誘電正接を大きくする原因となります。また、微量成分そのものだけでなく、微量成分が樹脂の吸湿を増加させる場合も、比誘電率や誘電正接は吸収した水の影響により大きく増大します。
機械的強度や耐熱性を改良するため、ガラス繊維や無機フィラーを充填する場合あるいは難燃剤を添加する場合においても、強化材、充填材、難燃剤のみでなくサイジング剤やカップリング剤等の加工助剤に対しても十分に注意する必要があります。すなわち、高周波用の材料開発では、樹脂自体の誘電特性を最初に評価した後、開発の過程での誘電特性の変化を十分に把握する必要があります。
(参照:「高周波用高分子材料の開発と応用」シーエムシー出版 馬場文明/監修 p23より抜粋)
Q5. アンテナ用途に適した誘電特性とはどのようなものですか?
Q5. アンテナ用途に適した誘電特性とはどのようなものですか?
A5.
携帯機器などに内蔵されるアンテナは小型化が求められており、そのため波長短縮効果から、高い誘電率を持つ誘電体が採用されます。また、アンテナの放射効率を高める為に誘電損失が低い誘電体が望まれます。誘電体の誘電率にばらつきがあると、アンテナの共振周波数がばらつくことに繋がるため、一定の誘電特性をコントロールする技術が必要とされています。
Q6. マイクロ波加熱と誘電率の関係について教えてください。
Q6. マイクロ波加熱と誘電率の関係について教えてください。
A6.
電子レンジを代表とするマイクロ波加熱は、加熱対象の誘電損失による発熱を利用しています。また、誘電率による電磁波の反射・屈折・波長短縮の効果が、マイクロ波の分布に影響します。
そのため、特に工業用途で効率的で均一なマイクロ波加熱を行う場合には、加熱対象及び周囲物質の誘電特性の把握が重要な要素となります。
誘電率測定の一般的な基礎知識
Q1. 誘電率(複素誘電率)とは何ですか?
A1.
誘電率とは、材料の電気特性パラメータで、材料中を伝搬する電磁波の波長短縮効果を示す値です。
誘電率;電磁波長の短縮効果(波長短縮率= )
ε’=誘電率の実部ε”= 誘電率の虚部
Q2. 誘電率のもつ波長短縮効果について簡単に説明してください。また、その効果はどのように利用されていますか?
Q2. 誘電率のもつ波長短縮効果について簡単に説明してください。また、その効果はどのように利用されていますか?
A2.
図は通話中の携帯電話から発せられる電磁波が人体頭部に伝搬している様子です。人体組織は比較的高い誘電率を持っているので、頭部内部に伝搬した電磁波の波長は短縮され、波が細かくなります。
また、誘電率の虚数項である誘電損失の数値で材料中の電磁波が減衰する程度が分かります。これが誘電率のもつ波長短縮効果です。
この波長短縮効果は、アンテナの小型化に利用されています。高誘電体材料を用いるとアンテナの小型化・高密度化が可能になります。
一方、回路基板を流れる電気信号は、基板材料が持つ誘電率、誘電損失などの影響で、信号の反射、遅延の原因となります。よって基板の高周波化、高速化の要求には低誘電体が用いられています。
このように条件にあった誘電率を知っておくことが重要になります。
Q3. 一般的に誘電率測定の手法にはどのようなものがありますか?また、それらの手法の特徴を教えてください。
Q3. 一般的に誘電率測定の手法にはどのようなものがありますか?また、それらの手法の特徴を教えてください。
A3.
一般的に高周波帯域における誘電率測定は、試料を含む測定系の入出力特性を測定して、得られた結果から誘電率特性を導出します。誘電率の測定対象は多種多様な材料が対象になることに加え、測定周波数の範囲が広帯域にわたるため、これまで様々な測定手法が考案されてきました。
(測定方法と特徴、周波数帯は下記の図を参照)
測定法 | 特徴 | 周波数 |
---|---|---|
平行平板(容量)法 | コンデンサを形成する方法。GHz帯の高周波では不向き | ~数MHz |
伝送線路 (反射、透過)法 |
ストリップ線路・同軸線路等の伝送線路の一部/全体に被測定物を設置して反射、透過を測定する方法。伝送線路の接続部の誤差要因を扱う必要がある。 | ~数10GHz |
自由空間法 | 自由空間に置かれた被測定物へ電波を当てて反射を測定する方法。波長の小さい高周波(ミリ波)帯域で有効。装置が大掛かりとなりやすい。 | 10GHz~100GHz |
共振器法 | 空洞共振器などの共振器を用い、微小な被測定対象による共振の変化を基にして測定する方法。被測定物の扱いや、共振器測定の知識など専門的な知識を必要とする。 | 1GHz ~100GHz |
近接場法 | プローブまたは微小開口型の共振器あるいは伝送線路を使用して微小変化を測定する方法。非破壊で局所的な誘電率の測定が可能。近接場の分布を精度良く扱う必要がある。 | 1GHz ~100GHz (光領域まで可能) |
その中でも大きく分けて反射/透過を利用する手法と、共振現象を利用する手法が主に用いられています。一般的に反射/透過を利用する手法は、広帯域の連続した誘電特性を求められるというメリットがありますが、測定系のノイズの影響を受けやすいというデメリットもあります(特に高周波域で顕著)。
一方、共振を利用する手法は、単一の周波数の誘電特性を求める方法です。共振条件の相対的な変化で測定しますので、ノイズの影響を受けにくく、精度の高い測定ができます。
(マイクロ波帯での測定を例に)
AETの販売する誘電率測定装置は、共振器法、近接場法を利用しています。また、測定サービスでは共振器法、同軸反射法、容量法、近接場法での測定も可能です。材料の特徴により最適な測定を選択します。
Q4. 一般的な誘電率測定における問題点は何ですか?
A4.
- 破壊測定のため試料の加工が必要。
- ネットワークアナライザなどの高価な測定装置が必要、またその取り扱い経験も必要。
- 試料の物理的な性質が要因となり測定誤差が発生。
- 物理的要因とは試料を加工する際の精度、多層構造・混合体などの複合材料が有する組成の不均一性、試料がもつ誘電特性の特徴(例えば異方性など)、温度による依存性、時間による試料の変化などがあげられます。
- 測定装置や測定環境が要因となり測定誤差が発生。
- 例えば、測定装置や測定ケーブルなどの品質です。
装置や部品による信号の再現能力や安定性、ノイズの量などが影響し、誤差が生じます。品質だけでなく、ケーブルの接続状態が悪いとインピーダンスが不連続になってしまうことがあります。
また近傍の環境からの外来ノイズ、温度や湿度などの外的環境も誤差発生の要因にあげられます。 - 誘電率導出の過程における計算方法が要因となり測定誤差が発生。
- ・導出過程における近似要素の有無
・近似が妥当な仮定条件
・電磁界解析技術の利用の有無
・数値解析自身の解析誤差 - 高周波に関する知識が必要。
- 測定装置の設定や校正作業に関する経験、アクセサリの取り扱い、試料の設置に関する経験、測定結果の読み取りに関する経験などの一般的な高周波測定や理論に関する理解が必要になります。
主に以上のような理由から誘電率測定は難しいというイメージが強く、一部の研究所や大学のみで行われてきました。
Q5. 共振器法に用いられる共振について教えてください。
A5.
共振とは、振動体の固有振動数に等しい振動が外部からその振動体に連続的に作用すると、振動の振幅がきわめて大きくなる。
この現象を共振という(参照:三省堂物理小事典※1)。
共振周波数とは、共振回路に特定の周波数の電圧を加え、共振状態となった時の周波数(参照:電波辞典※2)。
下の図は、1次元、2次元、3次元での共振状態です。1次元の図は縄跳びの縄が両端で固定されているのをイメージしてください。
振動体が一定の境界条件におかれると固有振動数(共振周波数)を持つようになります。固有振動とは、物体を自由に振動させた際に検出される特定の振動のことです。
2次元の図の四角が振動体の構造条件(境界条件)となり、それに一致した周波数の振動が与えられると振動(共振)が起こり、屈曲振動を引き起こし、その振動体が激しく振動するようになります。
※1 「三省堂 物理小事典 第四版」 宮島龍興/監修
※2 「電波辞典 第二版」 郵政省電気通信局電波部/監修 クリエイト・クルーズ発行
Q6. 共振と誘電率の関係について教えてください。
A6.
同一の空間内に誘電体を挿入すると、その誘電体がもつ誘電率によって電磁波長が短縮されます。波長が短縮されると真空換算された実効的な空間サイズが増加することになり、構造体の共振周波数が低下します。 誘電体が挿入される前と後で共振周波数がどれくらい変化したかを測定することで誘電率を算出できます。
AETが提供する誘電率測定について
Q1. 従来の測定法とAETの共振器法による測定方法には違いがありますか?
Q1. 従来の測定法とAETの共振器法による測定方法には違いがありますか?
A1.
- 測定共振器の設計が異なる
- 従来の測定方法で用いられている共振器は、円筒形などの単純な幾何形状の共振器です。これは限られたスペースの中に試料を挿入しなければならないので、試料の加工が必要になったり、測定できる試料の形態、形状などに制約があります。一方、AETが開発した同軸タイプの共振器は3次元電磁界解析を用いて設計された自由度の高い共振器です。共振器の上に試料を設置して測定するので、10mm×10mmの平滑な面が一つでもあれば試料の形状は任意です。(但し、AET開発の空洞共振器は試料の加工が必要です。)
- 複素誘電率の導出方法が異なる
- 従来の複素誘電率の導出方法は、測定試料による共振場の変化分を無視した摂動理論に基づいた算出方法です。一方、AETの複素誘電率の導出方法は、3次元電磁界解析を活用した算出方法で、共振場の相対的な変化から複素誘電率を算出します。この方法は、3次元電磁界解析ソフトウェア「MW STUDIO」を用いて、試料を含めた共振器全体の共振状態を高精度に求めることができ、従来の摂動理論に基づいた方法に比べ、かなり精度の高い測定方法を確立しています。
円筒空洞共振器
共振器の共振モード分布(TM011)
Q2. AETが販売する同軸共振器は特許を取得しているそうですが、その測定方法と測定原理について教えてください。
Q2. AETが販売する同軸共振器は特許を取得しているそうですが、その測定方法と測定原理について教えてください。
A2.
プローブ長さLに対してとなる波長 λ に相当する周波数において共振するように、三次元電磁界解析ウェアMW STUDIOを用いてプローブを設計。
同軸共振器プローブ先端部から漏れる共振電場(エバネッセント波)が先端部に設置された測定サンプルに浸潤することで、共振器全体の共振特性測定(共振周波数、Q値)がサンプルの複素誘電率に応じて変化します。この変化を測定することで誘電率、tanδを算出します。(特許取得番号 第3691812号)
Q3. AETが販売する測定装置の特長を教えてください。
A3.
AETでは共振器法をベースとした誘電率測定装置のラインナップを展開しています。
測定対象の形状や特性に応じて適切な装置を提案致します。
いずれの装置も独自開発のプログラムによって測定動作と誘電率算出が自動的に行われるため、使い勝手の良さが1つの特徴となっています。
Q4. エバネッセント波について教えてください。
A4.
近接場とも呼ばれる電磁波の事であり、空間を伝搬していく電波や光とは異なる性質を持ちます。
同軸共振器では、共振器上部に設けられた微小な穴から僅かに共振器外へ漏出するエバネッセント波を利用しています。
エバネッセントを利用することで任意形状の表面の局所的な誘電率を測定可能としています。
Q5. Q値について教えてください。
Q5. Q値について教えてください。
A5.
英語のQuality FactorからQ値と呼ぶパラメータは、エネルギーの貯めやすさを示します。
共振器に入力されたエネルギーと、そのエネルギー損失の比率で計算されるQ値は、数値が高いほど損失が低く、入力エネルギーを長く保持できる優れた共振器となります。
共振器を用いた誘電率測定方法では、測定対象によるQ値低下を観測して材料の誘電損失を計算するため、測定分解能を高めるためにはQ値の高い共振器が必要となります。
AETは、長年加速器開発で培った共振器技術を活用することで高Qの共振器を開発しています。
ちなみに、材料自体の特性としてQ値で表現することがありますが、この場合のQ値は誘電損失の逆数となり、材料の損失の低さを示す指標となります。
Q6. AETが行っている測定サービスの特長を教えてください。
Q6. AETが行っている測定サービスの特長を教えてください。
A6.
AETでは、自社開発の共振器法をベースとした測定装置を始め、他の原理に基づく測定装置も多数有しております。測定対象物の条件や測定周波数等から最適な測定装置を選択して測定サービスを提供致しております。