静電気放電(ESD)のモデリング

静電気放電(ESD: Electrostatic Discharge)とは、ある物体(しばしば人体)の電荷が突然他の物体に向けて激しく放たれる現象です。このような放電は電子回路に回復不能な損傷を与えたり、誤作動を引き起こしたりする可能性があります。電子機器の実際の使用状況に即した現実的なESDレベルにおいて、運転の継続性や信頼性を検証するためにESD イミュニティ試験が行われます。EUのEMC Directive(EMC指令)は、EU諸国への製品出荷前にCEマークを取得する条件であるESD イミュニティ試験を事実上すべての電気・電子機器に義務付けています。包括的なイミュニティ標準、製品標準、製品群標準のいずれについても、EMC標準のIEC 801-2、IEC 61000-4-2、EN 61000-4-2 のいずれかに則った ESD イミュニティ試験の実行が必要です。

人体―金属間の ESD に対する電子機器の耐性試験に広く使用されている ESD ジェネレータ(静電気試験器)は、電流とそれに伴う電界でシステムを阻害する試験装置です。 システムの感受性を予測するには、充分に正確なESDジェネレータ(ESDガン)モデルが必要です。簡略化したESDジェネレータモデル[1]を図1に示します。モデルは金属部分と誘電体部分を含み一般的なESDジェネレータを表現し、また集中回路素子によって基準放電電流を起こしシミュレーションを可能にします。集中定数素子の値は、ESDを引き起こす人体の胴体および腕部の影響を模擬するように調整します。ユーザ定義の波形を使用し、25Ωの電流源でモデルを励起します。波形の立ち上がり時間は1nsとし、これによってESDジェネレータの緩慢な荷電とスイッチング、および急激な放電を表します。

図 1:ESD部品の簡略化モデル。<br />挿入図は集中乗数素子の値とディスクリートポートのインピーダンス。<br />	右端のポート1 とポート 3 は内部抵抗1Ωで、DUTに接続されています。
図 1:ESD部品の簡略化モデル。
挿入図は集中乗数素子の値とディスクリートポートのインピーダンス。
右端のポート1 とポート 3 は内部抵抗1Ωで、DUTに接続されています。

ESDジェネレータのモデルを、ESDガンの電流放出の測定結果と一致するように最適化しました。測定は、シールド筐体内部にターゲット電流を測定するオシロスコープを置き、大きな金属壁に向けてESDガンの電流を放出して行います。最適化したESDモデルのシミュレーション結果と測定結果を図2に示します。両者には短い立ち上がり時間(<1 ns)が見られるほか、似通った特性を示しています。200nsに至る信号減衰の様子も良好な一致を見せています。両者間の差異は、おそらく静電気防止用ストラップの形状モデルの精度に因るものです。

図2:金属壁に対する ESD ジェネレータの放電の測定結果(青)と<br />	測定に基づき最適化された CST MWS モデルの結果(赤)
図2:金属壁に対する ESD ジェネレータの放電の測定結果(青)と
測定に基づき最適化された CST MWS モデルの結果(赤)

本事例のようなESDの感受性に関する考察では、スロットを通ってシールド筐体に侵入する電磁界に着目する手法が従来から知られています[2]。図3に示すセットアップでは、筐体は1と3の間のESD電流による電磁界によって励起され、キャビティ内に設置されたスクエアループ4で内部電磁界を検知します。

図3:スロットのあるボックスに装着したESDガン。<br />	励起によりボックス内のスクエアループに電圧が生じます。
図3:スロットのあるボックスに装着したESDガン。
励起によりボックス内のスクエアループに電圧が生じます。

CST MW STUDIOを使用した数値解析の結果と測定結果を図4に示します(最初の10ns)。測定結果の方にリップルが多いものの、振幅も時間も非常に似通った結果が得られています。

図4:ループに生じる電圧について<br />	シミュレーション結果(赤)と測定結果(青)の比較。
図4:ループに生じる電圧について
シミュレーション結果(赤)と測定結果(青)の比較。

まとめ

CST MW STUDIOによる計算結果と測定結果には良好な相関が見られ、EMCシミュレーションの性能が示されました。シミュレーションにはユーザ定義の時間信号を使用することができます(その場合はESDジェネレータのパルス出力が必要です)。

なお、本資料のモデルはSpartaco Caniggia氏とFransescaromana Maradei氏がItaltel S.p.A.の協力のもとに作製、測定を行ったものです。掲載にご同意くださいました両氏に深く感謝いたします。

参考文献

[1] S. Caniggia, F. Maradei, "Circuital and Numerical Modeling of ESD Coupling to Shielded Cables," EMC Europe 2004, Int. Symp. on EMC, pp. 6-10, 2004.

[2] G. Cerri, R. de Leo, R. de Rentiis, V. M. Primiani, "ESD Field Penetration Through Slots into Shielded Enclosures: A Time Domain Approach," IEEE Trans. on EMC, Vol. 39, No. 4, pp. 377-386, Nov. 1997.

会社名
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所在地
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