気象観測ロケットは主に高高度実験のために開発され、教育機関や低コストの研究に多用される比較的小型のロケットです。搭載するアンテナは、軽量、コンパクトで全方位性であることが求められます。また、どこかに引っかかったりしないようにロケットと一体化させる必要があり、この点が設計を難しくしています。本資料ではENSEIRB-MATMECA(Bordeaux Institute of Technology)のグループが手がけたCST STUDIO SUITEによるアンテナの開発をご紹介します。円錐形の機首部分に収納した低コストのアンテナで、実験データや遠隔計測データを869.4-869.65 MHzと2.4-2.4835 GHzの2つの周波数帯で送信します。飛行するロケットと地上基地局の間の最大距離は2.5 km、基地局からの仰角は90°から160°までの間で変化します(図1)。ただし、パラシュート失敗などの誤作動によるリスクを最小限に抑えるために、アンテナは仰角のカバレッジが最大となるように設計されました。仕様で最も需要だったのは、上方の帯域における利得の振れ幅が最大8.7 dBとされた点です。仕様の詳細は[1]を参照してください。
アンテナはロケットから突き出す部分が無いように、全構造をエポキシファイバー製の円錐形機首部に収納します。広帯域モノポールでは角度の自由度が少ないため、機体とのカップリングを最小化することが難しくなります。バイコーンアンテナは比較的自由度があり、交差型にすることにより軽量と全方位性の両方を達成できます(図2)。
仕様を満たす設計とするために、CST STUDIO SUITEの時間領域ソルバーを使用してアンテナパラメータの最適化を行いました。パラメータg(バイコーン上下の間隔)をスイープすることにより2つの周波数帯でインピーダンスを整合し(図3と4)、最適値としてg=1mmを得ました。
テーパーの長さ(図2のL11)の設計では、競合する2つの効果の妥協点を見出す必要があります。シミュレーションの結果、L11を大きくすると、2.45 GHzにおけるロケットの機体表面の電波とアンテナのカップリングが減少し、それによりアンテナカバレッジが向上することが明らかになりました。しかし、それと同時にアンテナ利得が減少する効果も生じます。L11を20 mmから50 mmまでスイープし、その結果、θ=18°から177°で2.45 GHzにおける利得8.7 dBが得られるL11 = 40 mmを最適値として得ました(図5)。
プロトタイプによる測定を行い(図6)、シミュレーション結果と一致した結果を得ました(図7)。測定チェンバーでは実現不可能なフルサイズのロケットにインストールしたアンテナの性能解析も、シミュレーションでは行うことができます。その結果、要求仕様を満たす性能が得られ、アンテナはProject Artemisロケットに統合されました。Project Artemisロケットはフランス国立宇宙研究センター(CNES)の2015 Prix Espace et Industrieを受賞しています。
[1] J. Prades, A. Ghiotto, E. Kerhervé and K. Wu, "Broadband Sounding Rocket Antenna for Dual-Band Telemetric and Payload Data Transmission," in IEEE Antennas and Wireless Propagation Letters, vol. 15, pp. 540-543, 2016. doi: 10.1109/LAWP.2015.2457338
まずはお気軽にご相談ください。
解析目的や現在直面している課題などお聞かせください。