RFID リーダコイル 13.56 MHz

RF認証システム(RFID)は、認証、発券、アクセスコントロール、サプライマネジメントなどの分野で広く使用されています。ここではLegic Ident SystemsのRFIDリーダコイルP81をCST MW STUDIO(CST MWS)で解析した事例をご紹介します。CST MWSのモデリング機能でリーダコイルモデルを作成し、周波数領域ソルバーでシミュレーションを行います。計算された複素入力インピーダンスについて、基板材質の損失に対する感度を計算し、測定データと比較します。(資料提供:Legic Identsystems AG, Switzerland)

図 1:RFIDタグの実機(左)と3Dシミュレーションモデル(右)。ピンプローブ部分もモデル化しています。
図 1:RFIDタグの実機(左)と3Dシミュレーションモデル(右)。ピンプローブ部分もモデル化しています。

2D-DXFレイアウトCADデータのインポートモデルに対し高さ35μの引き出し操作を行い、金属の厚さを作出します。さらに厚さ1.6mmの基板を付加してループアンテナの3Dモデルとします(図1右)。

このモデルについて、回路素子を接続しない場合、すなわちたとえばチューニングキャパシタンスで共振を調節しない場合のコイルの複素入力インピーダンスを求めました。アンテナのインダクタンスはコイルの形状、キャパシタンスはFR4基板の誘電プロパティにより決定されます。誘電定数とFR4の厚さの公差に関しては、資料[1]に詳しい説明があります。資料[2]は、製造公差がドリフト共鳴に与える影響に関する研究資料です。図2は開示されている測定データで[2]、複素誘電定数の実部と虚部の、周波数に対する相関を示します。

図2:FR4の誘電特性の測定値:eps'(左)とeps''(右)。青色のドットは測定点を、赤色のカーブは回帰曲線を表す。
図2:FR4の誘電特性の測定値:eps'(左)とeps''(右)。青色のドットは測定点を、赤色のカーブは回帰曲線を表す。

誘電定数と誘電損失は、複素インピーダンスの振幅と位相に顕著な影響を与えます。測定データをフィットさせるために、複素材質に対し二次Debyeカーブを適用しました。サンプルポイントとフィッティングカーブを図3に示します。このモデルでは、まず四面体メッシュの周波数領域(FD)ソルバーでシミュレーションを行った後、ダミー要素を追加してワイヤトレース付近のメッシュ密度を高め、さらにメッシュ制約事項を加えました。これらの設定により、モデルに含まれる二次四面体の数は約156,000になりました。計算結果を検証するために、同じ構造について六面体メッシュとサブグリッドオプションを適用した時間領域(TD)ソルバーで反射パラメータS11を求めました。四面体メッシュと六面体メッシュをそれぞれ図4と図5に示します。

反射係数S11のデータは、複素インピーダンスカーブに変換して表示することができます。13.56MHzにおける複素入力インピーダンスは、測定値との比較という意味合いからも特に注目されます。

図3: Debye二次モデルを使用した周波数依存性誘電率の表現
図3: Debye二次モデルを使用した周波数依存性誘電率の表現
図4:CST MW STUDIO周波数領域ソルバーの四面体メッシュの詳細(左)とサーフェスメッシュ(右)。<br />サーフェスメッシュは4トレースの断面を表示。
図4:CST MW STUDIO周波数領域ソルバーの四面体メッシュの詳細(左)とサーフェスメッシュ(右)。
サーフェスメッシュは4トレースの断面を表示。
図5:時間領域ソルバーの六面体メッシュの詳細。サブグリッドにより、導体周辺のメッシュが細かくなっている。
図5:時間領域ソルバーの六面体メッシュの詳細。サブグリッドにより、導体周辺のメッシュが細かくなっている。

基板の厚さと誘電率の感度を調べるため、四面体メッシュFDソルバーで、厚さを1.6mm -/+ 0.13mm、誘電率の実部(eps’)を -/+ 0.15の範囲で変移させるパラメータスイープ計算を行いました。図6に示す通り、パラメータの変移で共振ピークは大きく振れることが分かります。また時間領域と周波数領域の結果比較のため、図6(右)のプロットには名目上のeps’と厚さのカーブも表示しています。ソルバーの違いによる差は、FR4の差によるシフトに比べはるかに小さくなっています。

図6:入力インピーダンスの実部。軸マーカーは13.56MHzのRe(Z11)を示す(左)。周波数ドリフト部分の拡大(右)。
図6:入力インピーダンスの実部。軸マーカーは13.56MHzのRe(Z11)を示す(左)。周波数ドリフト部分の拡大(右)。

入力インピーダンスの実部Re(Z11)は、アドミタンスに変換すると見易くなります:Y=1/Z11=G+jB。アドミタンスのプロットが図7左です。インピーダンスの虚部Im(Z11)も、図7右に示しています。

図7:コンダクタンス(左)と入力インピーダンスの虚部(右)。<br />13.56MHzの軸マーカーは、リアクタンスを返す(jwl)。
図7:コンダクタンス(左)と入力インピーダンスの虚部(右)。
13.56MHzの軸マーカーは、リアクタンスを返す(jwl)。

[2]の別の測定データから、delta_eps’=+0.15とdelta_thickness=-0.13mmの二つの公差を組み合わた場合に、シミュレーション結果と測定結果が最も良く一致することが分かります。図8はRe(Z11)とIm(Z11)の測定値を、図9は複素アドミタンスY11=1/Z11を示します。

図8:インピーダンスZ11の測定値。 実部(左)と虚部(右)。
図8:インピーダンスZ11の測定値。 実部(左)と虚部(右)。
図9:Y11の実部のアドミタンスカーブ(上)と虚部(下)。
図9:Y11の実部のアドミタンスカーブ(上)と虚部(下)。
図10:電気感受率(サセプタンス)jBとコンダクタンスGから導き出したQ値
図10:電気感受率(サセプタンス)jBとコンダクタンスGから導き出したQ値

コンダクタンス(G)とサセプタンス(jB)のカーブから、アンテナのQ値を計算することができます。CST MWSのポストプロセステンプレートを利用して、周波数に対するサセプタンスのプロットを得ることができます。図10は、Q値の計算式とプロットです。

CST MWSでは、積分パラメータのほか近傍界の計算も可能です。電流分布と磁界放射のプロットは、モデルの電磁特性への理解を深めるのに役立ちつと共にモデルの定量化を支援します。

図11:コイルの表面電流分布と、磁界強度(断面)
図11:コイルの表面電流分布と、磁界強度(断面)

まとめ

RFIDを四面体周波数領域ソルバーで解析した事例を紹介しました。基板の公差に関するパラメータスタディを行い、チューニングしていないRFIDコイルの入力インピーダンスの感度を確認しました。

参考文献

[1] http://www.pcb-pool.com/download/
spezifikation/deu_EP_84_FR4__kupferkaschiert____MSC_Ditron_DB.pdf

[2] P. Klaus, L.Kuenzle, Zuercher Hochschule Winterthur: Projektarbeit PA2 Bar06/01: "3D EM Simulation einer 13.56 MHz RF-ID Antenne"

会社名
株式会社エーイーティー
所在地
〒215-0033
神奈川県川崎市麻生区栗木2丁目7番6号
TEL:044-980-0505(代表)
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