電子機器などの製品開発において、電磁界シミュレーションを使用したEMI解析は、製品化を効率的かつ迅速に進めるために欠かせないプロセスの一つです。
そこで今回はノイズ対策の重要な要素であるEMI解析の基礎知識について解説します。EMIの定義や影響などの基本的な知識から、電磁界シミュレーションの手法、シミュレーションソフトウェアを導入するメリットなどについてもご紹介していますので、参考にご覧ください。
はじめにEMIの定義と影響、必要性について見ていきましょう
「EMI(Electromagnetic Interference)」とは「電磁障害」や「電波障害」のことで、電子機器や通信機器が発する電磁波が、他の機器やシステムに影響を与える現象を指します。また、「エミッション」とも呼ばれています。
EMIが不要な電磁波を放射する現象に対して、電磁妨害の受けやすさを「EMS(Electromagnetic Susceptibility)」といい、日本語では「電磁感受性」と訳されます。
不要な電磁波が電気・電子機器などに干渉した場合、通信品質が劣化してデータの正確な伝送が妨げられたり、故障や誤作動を引き起こしたりする恐れがあります。
例えば、スマートフォンが発する電磁波によって周囲の音響機器やスピーカーからノイズが聞こえたり、電子レンジや冷蔵庫が同じ電源を共有することによって機器の動作に不具合が生じたりといった現象はよくあるEMIの事例です。
より深刻なものだと、医療機器や航空機のシステムに不具合を起こす恐れもあります。
上記のようなEMIの影響を防ぐため、電子機器や通信機器はEMI規格に適合しなければ市場で販売することができません。EMI規格は国や地域ごとに設けられており、メーカーは適切なEMI対策を行って、規格への適合を証明する必要があります。
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テクノロジーの発展に伴ってEMI規格も変化し続けており、どのメーカーにとってもEMI試験にパスすることが大きな課題となっています。特に製品開発の最終段階ではEMI対策が困難なため設計段階でのEMI解析が重要視されており、コスト削減・効率性向上の観点から、コンピュータープログラムを使用して電磁界の挙動を模擬する電磁界シミュレーションを用いることが一般的です。
電磁界シミュレーションは試作回数を減らし、問題を早期顕在化させることができるため、EMI対策において必要不可欠なプロセスとなっています。
ここからは、電磁界シミュレーションによるEMI解析について、解説を進めていきます。
EMI解析は、プリント基板のパターン、筐体、ハーネスや材料に大きく依存します。そのためこれらを忠実に再現する必要があり、解析モデルは複雑で規模が大きくなります。また、解析周波数範囲は放射性エミッションと伝導性エミッションで変わり、EMIに関する電磁界シミュレーションでは広帯域に渡って精度よく実施できる必要があります。
そのためEMI解析では、それぞれの解析対象に適切ないくつかの電磁界シミュレーション手法があります。
電磁界シミュレーションのソルバーは、次の3つに分類することができます。
モーメント法(MoM法)は、解析対象領域全体でなく境界や表面だけを離散化する数値計算手法です。狭帯域の応答や共振性の高い構造の計算に有効な周波数領域にて行われます。
解析空間全てにメッシュを切らず自由空間をモデリングする必要が無いため、解析空間を占める構造の割合が小さい場合に効率的な手法です。複雑で不均一な構造には適さず、材料特性を有する誘電体などの解析に不利ですが、大部分が金属材質で占められる構造の解析に有効です。
有限要素法(FEM法)は、解析対象領域を小さな要素に分割し、ノード(計算ポイント)を結ぶ要素内で方程式を解く手法です。モーメント法と同様に周波数領域にて解析が行われます。
解析対象の全体積に対してメッシュを切り、かつ形状近似が優れているため、複雑な形状・構造に対して精度よくメッシュを切ることができます。ただし、メッシュの生成過程は複雑で、時間がかかり、メモリー消費が大きく、計算規模の大きな解析には不利な傾向があります。
時間領域有限差分法(FDTD法)は、Yeeセルという格子状のセルで解析対象領域全てにメッシュを切り、電界と磁界の変化を時間ステップごとに計算することで、時間領域の解析を行う数値計算手法です。
時間領域で解析を行うため過渡解析を得意とし、任意の信号波形に対する電磁界や広帯域の解析が可能です。また、メモリー効率が高く、メッシュ数の多い問題に対しても高速で高精度な解析が可能で、大規模解析にも有効です。
EMI解析で電磁界シミュレーションを活用するメリットは、何度も試作を繰り返して実験を行う必要がないため、迅速かつ効率的な設計プロセスが可能となり、材料・機器・人件費といったコスト削減にも繋がる点です。
また、試作品から得られるデータよりはるかに多いデータが得られるという点もメリットだと言えるでしょう。
加えて、設計の初期段階で電磁界シミュレーションを行い、早い段階で問題を解決することで、開発リードタイムの短縮にも貢献します。
電磁界シミュレーションは、あくまで仮想モデルを用いたシミュレーションに過ぎず、それだけで全ての課題や修正箇所が特定できるわけではありません。また、電磁界シミュレーションを導入したからといって、必ずEMC試験(EMI試験・EMS試験)がクリアできるという保証もありません。
とは言え、製品開発の初期段階で電磁界シミュレーションを行うことで、試作と修正を繰り返す必要がなくなりますし、精度が高い状態で試作品の作成に移れば、設計・開発のコストを大幅に削減することに繋がります。SDGsの観点からも、推奨される取り組みだと言えるでしょう。
今回は、EMI解析の手法についてご紹介しました。本サイトでは、電磁界解析ソフトウェア「 CST Studio Suite」を使用した電磁界シミュレーションの事例を多数掲載していますので、ぜひ参考にご覧ください。
CST Studio Suiteは、あらゆる電磁界問題をカバーするOne Package Solutionとして、幅広い開発・研究分野で採用されているシミュレーションソフトウェアで、静電磁界のセンサーの計算からマイクロ波アンテナ、EMC対策、光デバイスの解析まで全てのソルバーが追加費用なしで利用できます。
さらに、使い勝手の良いユーザーインターフェイスで解析担当者の作業負担を軽減することにも貢献します。
現在使用されているシミュレーションソフトウェアにご不満がある方や、これからシミュレーションソフトウェアの導入を検討されている方は、電磁界解析ソフトウェア「CST Studio Suite」を検討されてみてはいかがでしょうか。
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