2024年7月24日

メタマテリアルをわかりやすく解説|メタ原子や負の屈折率とは?

メタマテリアルをわかりやすく解説|メタ原子や負の屈折率とは?

今回は、メタマテリアルとは一体何か、また負の屈折率とは何かなど、メタマテリアルに関する基礎知識をわかりやすく解説します。

記事の後半ではメタマテリアルで実現できることについても触れていますので、ぜひ参考にご覧ください。

メタマテリアルをわかりやすく説明すると…

メタマテリアルをわかりやすく説明すると、「自然界の物質にはない特殊な特性をもつ人工的な素材」とまとめられます。

メタマテリアルを使用すれば自然界の物質がもっていないような特殊な機能が実現できる可能性があり、例えば物体を透明に見せる「透明マント」もメタマテリアルを応用した事例の一つです。

メタマテリアルの基礎知識

メタマテリアルの名前の由来は「自然界に存在する物質を超越(メタ)する素材(マテリアル)」で、その名の通り、自然界の物質にはない振る舞いを実現するために作られた複合的な人工物質です。

では、メタマテリアルを理解する上で欠かせない「メタ原子(メタアトム)」と「負の屈折率」について見ていきましょう。

メタ原子(メタアトム)とは

メタ原子(メタアトム)とはメタマテリアルを構成する基本要素で、ごく小さなサイズ・間隔で並ぶ構造ユニットを指します。電磁波や音波といった波動現象に対して通常の物質では難しい振る舞いをさせるためには、材料を構成する原子及び原子の間隔を、コントロールしたい波長よりも小さく設計する必要があるからです。

例えば、人の目が感じることのできる光(可視光)は波長が約400〜700nmなので、可視光をコントロールするにはそれ以下のサイズでメタ原子を設計する必要があります。

メタ原子は決まったサイズ・形状をしておらず、実現したい技術に応じて設計することができるのが特徴となります。

正の屈折率と負の屈折率

メタマテリアルを理解する上で知っておきたい基礎知識として、「正の屈折率」と「負の屈折率」があります。

正の屈折率とは自然界で見られる通常の屈折率のことで、例えば水に入ったストローが水と空気を境に少し折れ曲がったように見えるように、媒質によって波の速さが異なることで見られる屈折を指します。

このような自然界にある物質の屈折率は常に1以上の値を持つため、境界面で逆側に折れ曲がることはありませんが、メタマテリアルは構造や形状などの設計次第で物理的性質が変えられるので、屈折率を1未満の値にすることができます。わかりやすく説明すると、水に入ったストローが、空気との境界面で「く」の字に折れ曲がる状態が実現できるのです。

そして、この屈折率が1未満の値になる現象を「負の屈折率」といい、メタマテリアルならではの特性の一つとなっています。

正の屈折率を表したストローとコップ

メタマテリアルの種類

厳密に言うと、メタマテリアルは負の屈折率が実現できる物質だけを指すわけではなく、自然界にはない振る舞いを見せる人工物質全般を指します。

これまでご紹介した光(電磁)をコントロールするために開発されたメタマテリアルは電磁メタマテリアルや光メタマテリアルと呼ばれ、メタマテリアルには他にも、音波や超音波をコントロールするために開発された音響メタマテリアルや、触覚をコントロールするメタマテリアル、熱エネルギー(熱輻射)をコントロールするメタマテリアルなどがあります。

メタマテリアルで実現できること

メタマテリアルは、特に電子工学分野において可能性を大きく広げてくれる存在です。ここでは電磁メタマテリアルを使った代表的な技術である「透明マント」「完全レンズ」「電磁ノイズの伝播抑制(EBG構造)」について、わかりやすく解説していきます。

メタマテリアルの事例①:透明マント

メタマテリアルが一躍有名になったのは、物体を風景の中に隠す「透明マント」という技術です。まるで魔法のようなこの技術は「光学迷彩」といい、自然界にはカメレオンやタコのように周囲の風景に擬態する生物が存在するものの、人間の手で作り出すことができないと考えられていたため、映画やアニメの中でのみ登場する非現実的なモノとして認識されていました。

そもそも、人がペンを見てペンだと認識できるのは、ペンに光が反射し、その反射した光を目で受け止めているからです。そのため、透明マントを実現するには、光を反射しないことと、背景から来る光を遮られないことの2つの条件を揃える必要があります。

前述した通り、屈折率が1以上となる自然界に存在する物質では「光を反射させない」という現象が叶わないのですが、屈折率を1未満・負の値に設計することができるメタマテリアルを透明マントに応用すれば、光を反射しない状況を実現することができます。

また、透明マントを実現するには隠したい物体の背後からの光を迂回させる必要があり、さらに、その迂回させる光は、物体周辺の迂回しない背後からの光を、見る人に同じ速さで届ける必要があります。

わかりやすく言うと、迂回するということは物体の周囲にある光よりも目に入るまでに移動する距離が長くなるので、透明マントを実現するには、迂回する光が迂回しない光よりも速いスピードで進む必要があるということです。

光は屈折率が高いほど速度が遅くなり、反対に低いほど速度が速くなるため、メタマテリアルの屈折率を1未満に設計すれば直接届く光よりも速くすることができ、透明マントが実現できる可能性があるとして、様々な研究機関で開発が進められています。

メタマテリアルの事例②:完全レンズ

メタマテリアルを応用した事例に、物体の像を完全に再現できる「完全レンズ」というものがあります。完全レンズはメタレンズやスーパーレンズとも呼ばれ、理論上、無限の解像度が実現できるとして今後に期待されています。

無限の解像度を実現するには、物体表面のかなり細かい部分にまで光を反射させ、反射した光をレンズで受け取らなければなりません。

しかし、通常のレンズは光の波長よりも細かい部分を結像することができないので(回折限界)、負の屈折率を持つメタマテリアルと、波長より小さい構造の観察が可能なエバネッセント波を活用して、無限の解像度を目指すのです。

物体に光を反射させた時、その物体にわずかに染み出す光(電磁場の変動)をエバネッセント場と呼び、エバネッセント場から反射する光(電磁波)をエバネッセント波といいます。エバネッセント場及びエバネッセント波は、物体から離れると急激に減衰するものなのですが、負の屈折率を持つ媒質中では反対に振幅が増大することがわかりました。

つまり、メタマテリアルの負の屈折率を利用してエバネッセント波を増幅させることで、より高い解像度の実現が可能になるのです。

これは理論上の話で、実際に完全レンズを再現するには様々な制約が存在するものの、すでに多くの企業で完全レンズを応用した製品開発が進められています。

メタマテリアルの事例③:電磁ノイズの伝播抑制(EBG構造)

電磁波は誘電率と透磁率のどちらか一方が負の領域にあると、波を通常の方法で伝えることができません。このような、電磁波伝播が抑制される帯域を「EBG(電磁バンドギャップ)」といい、メタマテリアルでは人工的にこのEBG及びEBG構造を作ることが可能です。

電気・電子機器は電磁ノイズによって不具合や破損などが発生しやすいため、他の部品や製品に対して電磁ノイズの影響を与えない能力と、他からの電磁ノイズに対して耐性を持つ能力(EMC/電磁両立性)が求められます。

そして、EMCについては市場毎に厳しくルール化されており、製品開発において大きな課題の一つとなっています。

EMCについては様々な対策方法がありますが、近年、メタマテリアルの一種であるEBG構造を使用した電磁ノイズ対策が注目されており、例えばプリント基板上の電磁干渉や、特定の周波数帯域の電磁ノイズ抑制などに応用されています。

関連記事:【EMC解説】ノイズとは?種類・影響・EMC対策について

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メタマテリアルの今後について

今回は、メタマテリアルの基礎知識や応用事例についてご紹介しました。ご紹介した事例以外にも、光学メモリーや超音波センサーなど、幅広い分野での研究開発が進められています。

また今回は主に電磁メタマテリアルにフォーカスしてお伝えしましたが、例えば従来の技術では実現が難しかった構造体の設計や、材料の開発、チューナブルフィルタなどにもメタマテリアルが活用されていますし、今後はメタマテリアルを使ったスマートフォンのレンズや放熱材、自動車の車載センシング装置や吸音材など、私たちの身近なところでメタマテリアル技術が普及していくことが見込まれています。

なお、株式会社エーイーティーでは、電磁メタマテリアルに関するレポートやセミナーなどを随時公開していますので、ぜひ参考にご覧ください。

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