EMC分野における「イミュニティ(immunity)」とはどのような意味やニュアンスを含む言葉なのか、今回はイミュニティの概念や、「EMS」「サセプティビリティ」「EMI/エミッション」との関係性について解説します。
また後半では、イミュニティ対策(EMS対策)の概要についてもご紹介しています。
ここではEMC分野で使われるイミュニティの意味と概念、伝導性イミュニティと放射性イミュニティ、またサセプティビリティやエミッションとの意味の違いについて見ていきましょう。
本来、イミュニティ(Immunity)とは生物が病原体や異物に対抗するための免疫や抗体を意味する医学用語なのですが、そこから派生して“特定の状況や影響から対象物を保護する”という意味合いで、幅広い分野で使用されています。
EMC分野におけるイミュニティは、外部からの電磁波に対して、電気・電子機器やシステムが正常に機能する能力を意味します。イミュニティの同義語としてEMS(Electromagnetic Susceptibility)や電磁感受性という言葉が使われますが、厳密にいうとニュアンスにやや違いがあり、イミュニティは電磁干渉に対してどれだけ耐性を持っているかという意味を持つのに対して、EMSは電磁干渉に対してどれだけ敏感であるかという意味を持っています。
なお、EMC分野でのイミュニティは、主に不要な電磁波に対する能力を指すことから、「ノイズ耐性」と呼ばれることもあります。
電磁ノイズが電子機器や電子部品などに与える影響は、機器やシステムの正常な動作を妨げたり、性能や機能の劣化に繋がったりと、非常に深刻な問題となります。電磁妨害による具体的な現象としては、例えばインターネットが繋がりにくくなる・テレビの画面にノイズが走るといった家庭内でよく発生するような身近なものから、医療機器の誤作動・航空機の通信システムトラブルなど、甚大な被害が発生するケースもあります。
このような電磁妨害による影響は、製品や部品が持つイミュニティを超える電磁ノイズを受けた場合に発生するため、製品開発時はあらゆる電磁的な環境を想定してイミュニティを高める必要があるのです。
イミュニティは、ケーブルを経由して伝わるノイズに対する耐性(伝導性イミュニティ)と、空間を経由して伝わるノイズへの耐性(放射性イミュニティ)の2つに分類されます。
伝導性イミュニティの対象となるものは電源ケーブルや通信ケーブル、入出力及び通信ポート、制御回路などで、伝導性イミュニティ試験ではEMI規格で規定されている帯域の電磁波を印加し、その影響を確認します。
対して放射性イミュニティの対象となるものはアンテナや無線モジュールといった無線電波を受けるもので、放射性イミュニティ試験ではラジオ/テレビ放送やアマチュア無線、携帯電話/スマートフォンなどの機器から放射される無線電波に対する耐性を評価します。伝導性イミュニティ試験と同じくEMI規格で規定されている帯域の電磁波を印加し、その影響を確認します。
EMC分野で使用されるサセプティビリティ(Susceptibility)とはEMS(Electromagnetic Susceptibility)と同じ意味で、電磁干渉・電磁妨害の受けやすさを示す言葉です。イミュニティと似た意味を持つ言葉ですが、イミュニティが「耐性」、サセプティビリティが「感受性」というニュアンスを持つことから、しばしば逆の意味を持つ言葉として使用されています。
EMC分野におけるエミッションとは電磁波や信号が外部に放射されることを意味し、EMI(Electromagnetic Interference)と同義語になります。
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次に、イミュニティ対策とは何か、言葉の意味や概念、イミュニティ対策の主な方法について見ていきます。
EMC分野では、イミュニティを高める対策(EMS対策)とエミッションを抑制する対策(EMI対策)を両立することが求められ、これらの対策を包括してEMC対策と呼んでいます。
つまりイミュニティ対策とは、電磁ノイズに対する耐性や免疫性を強めるための対策を意味します。
イミュニティ対策の目的は、機器の品質向上や信頼性・安全性の確保、法規制への適合があげられ、このうち、法規制への適合に関しては、CISPRやJISなどのEMC規格に適合することが証明されないと市場での販売ができません。
イミュニティ対策では、外部からの電磁ノイズを受けないための対策と、影響を最小限に抑えるための対策が取られます
具体的なデバイスとしては、外部の電磁環境から対象物を分離するシールドや、ケーブルの直列インピーダンスを高くするコモンモードチョークコイル、ケーブルとグランド間の並列インピーダンスを小さくするコンデンサ、入出力回路を分離するトランスなどが用いられます。
このうち、直接的に外部からの電磁ノイズを低減するものはシールドで、電子部品や電気・電子機器を部品に応じたシールドデバイスで保護します。
対して、コモンモードチョークコイル・コンデンサ・トランスについては主にプリント基板で使用するデバイスで、ノイズの影響を最小限に抑えるための対策として採用されます。
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今回は、EMC分野におけるイミュニティの意味や概念、また、イミュニティ対策の概要についてご紹介しました。
従来、電気・電子機器や電子部品のイミュニティは、実際に製品が使用される電磁的な環境を考慮する必要があることから、試作と実験を繰り返して評価する必要があり、それに伴ってかかる材料費や人件費、開発リードタイムが課題となっていました。
近年は電磁界シミュレーションの性能向上によって、試作レスで精度の高い評価が得られるようになり、設計の初期段階でイミュニティ対策を講じることが可能となっています。
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