今回は、EMC指令とは何か、概要や適用範囲、EMC試験(適合性評価)についてご紹介します。CEマーク・UKCAマークの取得を予定している方や、一連の流れを把握されたいという方は、ぜひ参考にご覧ください。
はじめに、EMC指令の概要や要件、CEマーク、UKCAマークについて解説します。
EMC指令とは、EU加盟国をはじめとする欧州経済地域(EEA)で適用されている電磁波干渉に関する指令です。危険や装置の障害を防ぐことを目的とした法的行為で、EEA内で電子・電気機器を販売する際は、EMC指令への適合と、CEマークまたはUKCAマークの添付が義務化されています。
つまり、CEマークまたはUKCAマークがなければ、EEA内で電子・電気製品を販売することができないのです。
またEMC指令はニューアプローチ方式に基づいており、製品の安全規格の詳細はEU指令に基づいたEU規格で定められています。
ニューアプローチ方式とは、簡単に言うと法律で製品の安全性に関する細かなルールは定めず、規格にて定めることを強制化する方式です。通常、法律を改正するには時間がかかりますが、規格であればスピーディーに改正できるという点にメリットがあり、EMCにおいてはEU規格にて詳細なルールが決められています。
またこれに対して、製品の安全について法律で規格の詳細まで決める方式をオールドアプローチ方式といいます。現在、日本の製品安全はこのオールドアプローチ方式が採用されており、特定の製品ごとに安全法規が制定されていますが、電気用品に関してはすでにニューアプローチ方式への移行が徐々に進んでいます。
EMC指令では、電子機器が発する電磁波が他の機器に与える影響について基準値を超えないこと(EMI/Electromagnetic Interference)と、外部からの電磁波に対して適切な耐性を持つこと(EMS/Electromagnetic Susceptibility)を基本的な要件として、具体的な基準やテスト方法が規定されています。
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CEマーク(Conformité Européenne)とは、製品がEMC指令を含むEU指令に適合している旨を証明するもので、主にEU加盟国で対象の製品を販売する際はこのCEマークを必ず添付しなければなりません。また、CEマークを表示することをCEマーキングと呼んでいます。
2020年1月31日にイギリスがEUから離脱した後、CEマークに代わる新しい適合性評価マークとして導入されたものがUKCAマークです。
CEマークと同様にEMC指令に関する評価も含まれ、英国市場で販売する製品は、必ずUKCAマークを表示しなければなりません。そして、UKCAマークを表示することをUKCAマーキングといいます。
なお、北アイルランドに関してはCEマーキングが引き続き採用されています。
次に、EMC指令の適用エリアと対象製品について見ていきましょう。
EMC指令の適用範囲はCEマーク及びUKCAマークの適用が義務付けられているEUの27の加盟国および欧州自由貿易連合(EFTA)諸国、EU加盟国候補のトルコ、そしてイギリスとなっています。※2024年1月現在
なお、日本市場で販売する電子・電気機器はEMC指令への適合は義務付けられておらず、日本独自のルールであるJIS規格やVCCI規格、RCJS規格、電気用品安全法への適合が求められます。
ただし、CEマーク及びUKCAマーク対象国への輸出を検討しているのであれば、日本国内の法令や規格を守ることに加えて、EMC指令への適合も必要となります。
EMC指令が適用される製品は「Equipment」と定義付けされています。Equipmentとは装置や機器などの電子的な製品を包括する用語ですから、簡単に言うと、電気を使用するもの全般が対象となります。
また、例えば部品Aと部品BのそれぞれでEMC指令への適合が評価されていても、部品Aと部品Bを使った製品が自動的にEMC指令に適合することはなく、完成品そのものを単一の機器として見なし、改めて適合への証明が必要です。
国やエリアにかかわらず、電子・電気機器を販売する際、メーカーは市場に応じたEMC評価を行うのが通常です。
EMC指令におけるEMC評価(適合性評価)については、自社で評価する「自己宣言」という方法と、認証機関で認証を受ける方法があり、どちらで評価するかは各指令原文にて指定されているため、製品に応じた方法を採用しなければなりません。
また適合性評価の手順は「評価モジュール」と表現され、モジュールAからモジュールHまで定められています。そして、モジュールAを使用したEMC評価のみ自己宣言が認められており、それ以外のモジュールB〜Hは認証機関にて評価される必要があります。
EMC指令の適合性評価は、大まかに下記の流れで実施します。
技術文書(TD/Technical Documentation)とは、EMC指令への適合性を提示する文書一式のことで、決まった形式はなく、メーカーが独自で内容を作成します。CEマーキング・UKCAマーキングをする場合、技術文書(TD)の作成は義務となっており、当局から要求があった際は速やかに提出する必要があります。
また、EU適合宣言書(DoC/Declaration of Conformity)とは、適合性を表明するための文書一式のことで、技術文書(TD)と同じく、CEマーク・UKCAマークを取得する際は必ず作成しなくてはなりません。
なお、OEMにて製品を製造する場合は、技術文書(TD)とEU適合宣言書(DoC)の作成は、OEMメーカーではなく、出荷・販売するメーカーが行うことになっています。
モジュールA対象品の場合、メーカー自身でEMC指令への適合を証明することができます。
自己宣言だからといってEMC指令や規格に則った評価を実施せずにCEマーキング及びUKCAマーキングをした場合、義務に違反したということになるため刑事罰の対象となりますし、またモジュールA対象品だからといってこれらのマーキングが任意になることはなく、対象エリア内で販売する際は必ず添付することが求められますので、責任を果たすようにしましょう。
自己宣言可能なモジュールA以外の製品は、よりリスクの高い製品として、欧州委員会から認定を受けた認証機関(NB/Notified Body)にて適合性評価を受けなければなりません。また外部に委託するため、自己宣言より時間と費用を要するのが通常です。
ちなみに、モジュールA対象品でも認証機関にて審査を受けることができます。
EMC対策の基本は、「加害者にならない対策(EMI対策/エミッション対策)」と「被害者にならない対策(EMS対策/イミュニティ対策)」を施すこと、そして設計段階からEMC対策について考慮することです。
EMI対策では、不要な電磁ノイズそのものの発生を抑制するための対策と、発生した電磁ノイズが外部に伝わらないようにするための対策を実施します。具体的には、グランディングやフィルター、シールドなどになります。
対してEMS対策では、主に外部からの電磁ノイズを受けないための対策と、電磁ノイズを受けた場合、その影響を最小限に抑えるための対策が取られます。エミッションと同じく不要なノイズを抑制するフィルタ対策の他に、電磁ノイズを逃すための経路を作る方法(バイパス)や、電磁ノイズを吸収する方法、高インピーダンスで電磁ノイズを反射させる方法などが採用されます。
関連記事:EMI対策とは何か?電磁ノイズの基礎知識から対策手法について
今回は、EMC指令についてご紹介しました。
電磁ノイズは目に見えず、さらに予測しにくいことから、試作と実験を繰り返して評価する必要があり、それに伴って発生する材料費や人件費などの多大なコストが製品開発における重大な課題となっていました。
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