高精度の回路解析を行うためには、配線パターンやコネクタ、半導体パッケージなどの回路要素が持つ寄生成分(RLCG)を正確に表現することが求められます。 3次元電磁界解析により、立体的な回路要素の寄生成分を高精度に抽出することが可能です。 CST Studio Suiteでは特徴の異なる3種類の等価回路抽出機能を提供しています。 本トピックスではそれぞれの特徴や詳しく解説します。
3種類のアプローチを以下の表に纏めました。 いずれもCST Studio Suiteの標準ライセンスでご利用いただくことが可能です。
① | S-Parameterから等価回路抽出 | 入出力特性としてS-Parameterが求められる伝送線路に対し、広帯域に適合する等価回路を抽出します |
② | 専用ソルバーによる等価回路抽出 | ワイヤボンド、バスバーなどの配線要素のRLCGを直接解析し、等価回路を生成します |
③ | ケーブル伝送特性の等価回路抽出 | 同軸、並行配線、ツイスト線などの各種ケーブルに対し、2次元断面の解析から伝送パラメータを生成します |
基板上の配線パターンやコネクタなど、S-Parameterとして入出力の特性を解析可能な対象であれば、S-Parameterから等価回路抽出するアプローチが適しています。 CSTの各種高周波ソルバーを用いてS-Parameterを求め、ポスト処理として回路抽出を行います。 回路としては可読性に優れるRLCGラダー回路としての抽出と、広帯域の特性を正確に表現できるVector Fittingによる抽出から選べます。 RLCGラダー回路は波長に対して1/10程度の物理サイズの対象であれば良好な等価回路として機能します。
簡単な並行配線のモデルで抽出方法に違いを検証しました。配線長40mm弱の並行マイクロストリップ線路に対し、20GHzまでの伝送特性を時間領域ソルバーで計算しました。
ポスト処理として等価回路抽出機能を選択します。 Transmission Line(RLCGラダー回路)とVector Fittingから選択します。
2つの方法で抽出したSPICEファイルを用いてS-ParameterをSchematic側の回路解析機能で計算してみました。 RLCGラダー回路の抽出における基準周波数として0.1GHz、ラダーの段数を10と設定しました。
RLCGラダー回路として抽出したSPICEでは10GHzを超える周波数では元のS-Parameterから大きく乖離しており、このアプローチによる妥当性が失われていることが確認できます。 一方のVector Fittingは20GHzまで元の特性と殆ど一致したS-Parameterが得られていることから、広帯域に高精度な抽出が行われていることが分かります。
なお、S-Parameterから等価回路抽出する機能は、Schematic側の機能としても利用できます。 そのため、TouchStone形式でインポートされた実測データをSPICEに変換することもCSTでは可能です。
CST Studio Suite 2020から新たに追加された専用ソルバー Partial RLC Solver は、設定した電流の入出力間のインダクタンス、抵抗と、周囲導体間の容量成分を解析します。 周波数領域ソルバーのFast Reduced Order Modelのメソッドをベースとしており、広帯域の回路抽出を可能としています。
以下に示す簡単なワイヤボンディングを例に実際の使い方をご説明します。
抽出する回路の端子、節点となるターミナル・ノードと回路上の基準電位となるグランドを割り当てます。
等価回路としては以下のようになります。
上記等価回路のR、L、Cの周波数依存性結果を得ることが出来ます。
抽出結果はBroadband SPICEとして出力可能です。
3つ目のアプローチはケーブルハーネスに特化した手法です。 ケーブルハーネスのEMC解析を効率的に実現するCSTのモジュール“CABLE Studio”を利用します。 CABLE Studioは3次元構造に対して配線されるケーブルハーネスを伝送線路として等価回路抽出し、 3Dのフルウェーブ解析と回路解析の連携にケーブル要素を組み合わせることでケーブルによる放射とイミュニティの両方を効率的に扱うことを可能としています。
今回は複雑なケーブルバンドルのモデリング方法と等価回路抽出の機能をご紹介します。 (CABLE Studioを活用した放射、イミュニティ解析については別の技術トピックスにて詳しくご紹介する予定としています。)
CABLE Studioでは以下の4種類の基本ケーブルとこれらを組み合わせた複合ケーブルを扱います。 基本ケーブルは単線、並行配線(リボンケーブル)、ツイスト線、同軸ケーブルです。 ツイスト線は撚りピッチや回転方向も指定できます。 同軸ケーブルの場合はシールドとして編組、ソリッド、ホイルタイプを選択でき、それぞれ周波数でのシールド特性を伝達インピーダンスとして表現します。
以下は複合ケーブルの一例となるUSB3.0のケーブルです。 1組のUTP(非シールドツイストペア)、2組のSTP(シールドツイストペア、ドレインワイヤ付き)、電源・GNDの単線が組み合わされ、全体にシールドがされています。 ケーブルグループ内の各ケーブル要素の相対的な位置関係については、実際のケーブルバンドルのように、空間的な制約の範囲内でランダムな配置を取ることも可能です。
CABLE Studioでは上記のようなケーブルに対し、2次元断面での解析を行って伝送線路としての等価回路抽出を行います。(2DTLモデリングと呼びます。) ケーブルグループ内の電気的な結合に加え、近接する筐体などの3次元構造や他のケーブルバンドルとの結合も考慮した等価回路を出力します。
抽出された等価回路網はSchematic側に渡されて3Dのフルウェーブ解析と回路解析の連動の一部に組み込むことが可能な他、SPICE形式のファイルで出力することも可能です。
以上、CSTによる等価回路抽出機能3通りについてご紹介しました。 いずれも標準機能として利用可能な内容となります。 電磁界解析に加えて等価回路抽出も必要とされる皆様、CST Studio Suiteをぜひご活用ください。
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