IoT社会のキーデバイスの1つと言えるRFIDは現在、生活の身近なところでも普及が進んでいます。複数の方式や利用方法があるRFIDの製品開発や設置性能評価に対し、CST Studio Suiteによるシミュレーションがどのように役立つかをご紹介いたします。
RFID(Radio Frequency Identification)は、情報が書き込まれたICタグにワイヤレスで通信し、データの読み取りや書き換えをするシステムであり、交通系ICカードを始めとして工場の在庫管理や製品のトレーサビリティ管理など、様々な分野で活用が広がっています。
特長としては、 ①非接触通信であること、②バーコードに比べデータ容量が大きく、書き換えも可能であること、③小型で耐久性に優れていること、などが挙げられます。
RFIDには通信に使用する無線の周波数帯が複数あり、通信範囲などの特性の違いがあります。 アプリケーション毎の利用シーンやコスト面などの観点から適切な方式が選択されます。 現在、日本でよく用いられている周波数帯は13.56MHzと920MHzの2つに分かれます。 それぞれの特徴を以下の表に整理しました。(その他、135kHz以下、および2.4GHzなどの周波数帯を用いる他方式については本トピックスでは対象外とさせて頂きます。)
周波数帯 | 13.56MHz(HF帯) | 920MHz(UHF帯) |
通信方式 | 磁界結合 | 電波 |
タグ形態 | コイル | パターンアンテナ |
最大通信可能距離 | 数cm程度 | 10m程度 |
通信するタグの数 | 1:1が基本 | 複数一括読み取り可能 |
主な利用例 | 交通系IC、入退出管理など | 在庫、物流管理など |
上記の通り、一口にRFIDと言っても利用している周波数帯域、つまり波長が異なっている方式があることが分かりました。一方で、典型的なタグのサイズは方式に拠らず数cm以内と変わりません。
13.56MHz(波長 22.1m)では 典型的なタグ形状はスパイラル状のパターンコイルです。 スパイラルコイルのコイル全長は波長比で短く、コイル自体では13.56MHzで共振しません。 そのため、チップコンデンサ等と組み合わせて共振回路を形成します。 そのため、パターンコイルのインダクタンスを正確に評価することがタグ設計に求められ、回路解析との連携が必要となります。 また、通信距離は比較的短いことが多いため、タグ単体の設計に加えてタグとリーダーの位置関係や、周辺領域を含めた通信性能も評価対象となります。
一方の920MHz(波長 326mm)では典型的なタグ形状は平面パターンアンテナです。 平面パターンアンテナは動作周波数で共振するように設計されています。 特定方向への放射(指向性)や放射効率と言ったアンテナとしてのパフォーマンス指標を基にタグの設計をします。 中長距離通信で様々な設置環境での通信特性の評価が必要となり、13.56MHzに比べて対象となる領域は大きくなります。 リーダー・ライター間の送受信間のシステム評価が重要となります。
実際にシミュレーションを行うことを想定し、解析精度及び解析速度の観点で解析手法を考えてみます。 ポイントとなるのはメッシュサイズと波長の関係性です。 前述の通り、13.56MHzと920MHzでは波長が大きく異なり(22.1mと326mm)、メッシュサイズとの寸法比が大きく異なります。 高周波電磁界解析手法のうち、汎用性が高い代表的な2つの方法である、周波数領域手法(有限要素法など)と時間領域手法(FDTD法など)では、この比率に対する適性が大きく異なります。
周波数領域手法は、メッシュサイズと波長の比率は解析時間に影響がありません。 一方の時間領域手法は、メッシュサイズが小さくなるに従って細かい時間ステップ幅で解析をする必要があるため、計算時間(時間ステップ数)が増大する特性があります。 このため、13.56MHzのRFID解析に時間領域手法を使用すると計算時間が非常に長くなる傾向があります。
ただし、周波数領域手法は、解析領域が大きくメッシュ数が増えると計算時間や所要メモリが増大する性質があり、通信距離が大きい920MHzのRFID解析では、解析効率に優れる時間領域手法が優位になってきます。
解析手法の基本的な特性を理解し、解析対象に応じて適切に使い分けていくことが効率的なシミュレーションには重要となります。 CST Studio Suiteは、時間領域、周波数領域ソルバーに加えて、多くの手法が用意されており、標準ライセンスで全て利用可能です。
最初に13.56MHzのRFIDの解析例をご紹介します。 解析モデルは、外形15mm×12mm、線幅0.2mmの平面コイルパターンです。
コイルパターンの全長は200mm程度です。これは、13.56MHzの波長の1/100に満たず、前述の通りパターン自体で共振はしないため、マッチング回路を追加する必要があります。CST Studio Suiteでは、電磁界解析と密接に連携する回路シミュレーターが付帯しているため、マッチング回路設計も容易です。 単一周波数でのマッチング回路生成であれば、マクロ機能を使うことで瞬時に回路を追加できます。
直列、並列の2つのコンデンサによるマッチング回路が形成されました。3次元解析モデルのRFIDコイルとの回路接続は、信号の入出力を行うPortを介して接続します。 マッチング回路によって13.56MHzで共振することが確認できました。ICのインピーダンスを考慮したマッチングも設計可能です。
近距離通信の13.56MHz RFIDでは、タグとリーダー・ライター間の距離や位置ずれなどの有効範囲の検証にシミュレーションが活用できます。 簡易的に、2つのコイルを10mm離して配置し、横方向にずらした時のコイル間の結合レベルを解析してみました。
予想通り、2つのコイルの中心軸からずれるに従って結合レベルが低下することが確認できました。良好な通信が可能となるタグの配置エリアを広く改善するため、リーダー・ライター側のコイルの設計を工夫してみました。 コイル面積を大きくし、またコイルのパターンをらせん状にすることによって、広い面積においてフラットな磁場強度を持つように設計しました。
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