電子機器や電子部品などは、機器自体が発する電磁ノイズが大きいと他の機器や部品に干渉する恐れがありますが、機器自体の電磁ノイズ耐性が低い場合も、他の機器から受けた電磁ノイズによって機器の損傷や誤作動が発生しやすくなります。
このような電子機器・電子部品同士による電磁ノイズの干渉は、ユーザーの快適な使い心地を阻害することに留まらず、人体への安全性を脅かすことにも繋がります。引いては、製品やメーカーへの信頼低下にも繋がるでしょう。
そこで今回は、電磁ノイズが発生する現象を指す「エミッション」と、電磁ノイズを受ける耐性を指す「イミュニティ」について、それぞれの基本的な概念と関係性、対策の違いなどについて解説します。
はじめに、エミッションとイミュニティについて、その違いにフォーカスしながら詳しく見ていきましょう。
エミッションとは「放射」や「排出」という意味を持つ言葉で、電子工学分野においては電子機器や電子部品が電磁波を放射する現象を指します。
また、放射された電磁波が他の機器やシステムに影響を与えることを電磁妨害(EMI/Electromagnetic Interference)と呼び、エミッションが発生するということは、電磁妨害を起こす可能性があることから、エミッションと電磁妨害(EMI)はしばしば同じ意味を指す言葉として使用されています。
しかし厳密に言うと両者は異なる概念で、エミッションは電磁妨害(EMI)の原因となる一つの要因だと言えるでしょう。
またエミッションは伝達経路の違いによって、放射エミッションと伝導エミッションの2つに分類されます。放射エミッションとは空気を介して伝わるノイズで、一方の伝導エミッションとはケーブルなどを伝播していくノイズとなっています。
関連記事:EMI(エミッション)とは?基本知識や対策の必要性について
イミュニティとは本来「免疫」や「免疫性」という意味を持つ医学用語で、電子工学分野においては、電気・電子機器やシステムが外部からの電磁ノイズに対して、どれだけ耐性を持っているかを示す言葉として使用されます。電磁波に対する感受性を表すことから、電磁感受性(EMS/Electromagnetic Susceptibility)とも呼ばれています。
電磁妨害の影響は、電子機器や電子部品のイミュニティを超える電磁ノイズを受けた時に発生するため、製品開発において、あらゆる電磁的な環境を考慮してイミュニティを高める対策が求められるのです。
また、イミュニティもエミッションと同じく伝達経路によって放射イミュニティと伝導イミュニティの2つに分類することができます。放射イミュニティとは空気を介して受けた電磁ノイズに対する耐性で、伝導イミュニティとはケーブルなどを伝播して受けた電磁ノイズに対する耐性を指します。
関連記事:EMC分野におけるイミュニティとは?意味やEMS対策の概要
エミッションは電磁ノイズを出す側の現象で、イミュニティは電磁ノイズを受ける側の耐性であることから、それぞれ「エミッション=加害者」と「イミュニティ=被害者」という関係性で認識されています。
例えば電子レンジはエミッションによる電磁妨害や電磁干渉を引き起こしやすい家電のため、ここで言う「加害者」の立場になることが多いのですが、落雷などで過剰な電圧・電流が流れると今度は「被害者」の立場になり、機器の故障や破損に繋がることがあります。
つまり、エミッションだけ対策すれば良い・イミュニティだけ対策すれば良いということではなく、電気を使用する機器や部品は、全てにおいて両方の能力を持つ必要があるのです。
そして、上記のような、影響を与える電磁波を最小限に抑えて、かつノイズの影響も最小限に抑える能力を総称して電磁両立性といい、「EMC(Electromagnetic Compatibility)」とも呼ばれています。EMC性能が高い状態は、電磁波が他の機器や部品に影響を与えず、他からのノイズにも影響されない耐性を持つ状態であることを指します。
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EMC性能はCISPRやJISなどのEMC規格によって具体的な数値目標が定められており、EMC試験にてEMC規格に適合することが証明できないと、商品として販売することができません。またこれらのEMC試験に向けた対策を包括してノイズ対策(EMC対策)と呼び、エミッションとイミュニティに関してそれぞれの対策が求められます。
つまりEMC対策とは、「加害者にならない対策(EMI対策)」と「被害者にならない対策(EMS対策)」を施すことなのです。
ここではエミッションとイミュニティに関する対策の違いについて焦点を当て、それぞれの特徴について見ていきましょう。
エミッションに関する対策はEMI対策と呼ばれ、主に電子機器や電子部品から発生する電磁ノイズが他の機器や部品に干渉しないようにする対策を指します。さらに、人体や環境への影響を避けることも重要な目的の一つとなっています。
エミッションに関する対策では、不要な電磁ノイズそのものの発生を抑制するための対策と、発生した電磁ノイズが外部に伝わらないようにするための対策を講じていくのが通常です。
具体的には、回路や筐体を大地に接続して基準電位の安定化を目指すグランド対策や、電源ラインなどにフィルタを組み込んで不要なノイズだけを抑制するフィルタ対策、ノイズ源やノイズ対策が必要な機器を金属導体で覆ってノイズによる障害を防ぐシールド対策などがあります。
詳しくは「EMI対策とは何か?電磁ノイズの基礎知識から対策手法について」で解説していますので、併せてご覧ください。
イミュニティに関する対策はEMS対策と呼ばれ、主に外部からの電磁ノイズを受けないための対策と、電磁ノイズを受けた場合、その影響を最小限に抑えるための対策が取られます。
そもそも電磁ノイズには人工的に発生するものと自然的に発生するものがあり、イミュニティ対策においては、両方の対策が求められます。
人工的に発生するノイズは人工ノイズと呼ばれ、機器や部品からの干渉に対するイミュニティ性能を高める対策となります。
一方で、自然的に発生するノイズは自然ノイズと呼ばれ、雷や空中放電によって発生する電磁ノイズを指します。例えば雷が直撃すると非常に大きなエネルギーが電子機器に侵入して機器の損傷や発火を引き起こす恐れがあります。直撃していない場合でも過剰な電圧・電流が誘起され、ケーブルなどを伝播して電子機器に到達して同様の障害を引き起こすことがあります。
そのため、イミュニティにおいては人工ノイズへの対策に加えて、落雷などによる自然ノイズへの対策も重要だという点が、エミッション対策(EMI対策)との違いだと言えるでしょう。
具体的な対策方法としては、エミッションと同じく不要なノイズを抑制するフィルタ対策の他に、電磁ノイズを逃すための経路を作る方法(バイパス)や、電磁ノイズを吸収する方法、高インピーダンスで電磁ノイズを反射させる方法などが採用されます。
関連記事:【EMC解説】ノイズとは?種類・影響・EMC対策について
今回は、エミッションとイミュニティの違いについてご紹介しました。
電磁ノイズは目に見えず、さらに予測しにくいことから、試作と実験を繰り返して評価する必要があり、それに伴って発生する材料費や人件費などの多大なコストが製品開発における重大な課題となっていました。
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